高速道路での窃盗被害 ーカタツムリの奇跡ー

海外

メキシコ就労後、現在は修士スペイン留学中の流です。
今回は高速道路で窃盗被害にあったお話をします。

出発の朝


その日は私を含めた日本人女性4人で、郊外にドライブをしようとレンタカーを借りた。
借りた車に向かって歩いていると、珍しく昨日雨が降ったからか、一匹のカタツムリが駐車場のアスファルトの上にいた。
「わぁ、珍しい!」「カタツムリなんて、何年ぶりに見ただろう!」そんなことを言いながら、
私たちはカタツムリを囲んで見ていた。
「でもここにいたら、車に轢かれちゃうね」と話し、1人がカタツムリを草むらの方に運んであげた。

久しぶりにカタツムリを見て、笑いから始まったドライブ。
出発から30分後にはあんなに酷い目にあっているとは誰も予想していなかった。

事件発生


目的地に向かう為私達は高速道路にのった。
私たちは談笑しながら、ドライブを楽しんでいた。

そんな時窓から、隣を走る車の様子に目がいった。
白い車に30代位の男性2人が乗っていて、
車内から私達が乗るレンタカー車の後ろタイヤの方をしきりに指差し、車に問題が起こっていることをジェスチャーで表した。

「えっ、どうしたんだろう」「トランクでもあいている?」
と軽度なトラブルを最初は想像していたが、
白い車は私たちの車と並走を続け、しきりに後方を指さし続ける。助手席の男は窓をあけ、
何か重大な問題が起こっている事を、必死に伝え続けた。

その後、白い車は私達の車との並走をやめて前を走っていったので、
問題が起こっている事を伝えて去っていったのだと思った。

「よっぽど重大な事なのかな」「あんなに必死に伝えて火でも吹いている?」
「何が起こっているか確認した方がいいですね」と話していると、
前に出て走っていた白い車は、ハザードランプを点滅させ、少し広いスペースがある脇道に停車した。
それを見た私たちも、白い車の後ろに続き停車。

白い車から男性2人が降りてきて、タイヤ後方に行き、またタイヤを指さしてこれを見てと言ってくる。
その時私は、高速道路で車が来ていないか安全を確認して、ドアを開けてタイヤの方に回った。
彼はスペイン語で「Tiene el problema、goma、goma」とタイヤに問題がある事を指摘してきた。

最初は私だけ男性Aの話を聞いており、他3人は車内で待機していたが、
もう一人の男性Bが窓をノックして他の3人も出るように促し、私達は全員後方タイヤの傍で話を聞き始めた。

男性Aはトランクを開けて、少しの間何かを探している素ぶりをした。数十秒後にはトランク内のシートをあけて、いくつかの用具が入っているのを指さし、
「Nececita arreglar con esos 」=これらの道具で修理が必要だ
いった旨の発言をして、もう1人の男性とその場を離れて車内に戻った。その数十秒後、彼らは出発した。

残された私達4人はタイヤを見ながら
「結局何か詳細は分からないけど、タイヤに問題があるって伝えていましたよね」
「まだ30分位走行して、レンタカー屋の場所は近いので、遠くに出かける前にレンタカー屋に戻って確認しましょう」と話し、車内に戻った 。

全員が車内に戻り、レンタカー屋に出発しようとした。その時私は、携帯を使おうとして携帯がない事に気づく。
座席を見渡した時に、携帯以外に自分のバックもないことに気づく。
「携帯もバックも盗まれた!」
後方座席にあった3人分の財布や家の鍵が入ったバック3つ、携帯、ジャケット全てが盗まれていることに気づく。
運転してくれている子のバックにはパスポートと免許証も含まれている。
もう一人の子は1つの財布に全てのクレジットカードを入れており、生活が出来なくなる…と嘆いた。

「盗まれた!!」と気づくも、犯人の車は3分前には出発して、追う事もできない。

盗難後

幸いにして、私以外は携帯を手元に持っており、
助手席に乗っていた女性は荷物を持ったまま車を出たので被害は無かった。

私自身も慌てる事なく冷静だったので、一人の携帯からicloudにログインし、「iphoneを探す」機能を試みた。
だが最終の場所は21:50 昨夜で、表示されているのは自宅の場所だった。
私はバッテリーの消耗を防ぐ為に機内モードにしていたので、恐らくインターネットがない状況で最新の位置情報が表示されないと認識した。
場所は確認できないものの、「iphone 紛失」モードを押して犯人に携帯を使われないようにロックをかけた。
その後、から任意で「電話番号」と「メッセージ」を入力する画面が現れる。

私はどうしたら犯人が携帯を返したくなるだろうと考えを巡らせ、
「Hablábamos a la policía. Voy a llegarte pronto 」
「警察に既に通報しました。すぐそちらに到着します」というメッセージを残した。

まだ警察に話せていないし、位置も分からないから、メッセ―ジの内容はハッタリである。
でも犯人が動揺する事を祈った。

しかし依然として、最新の位置情報は表示されていない為、私はその時点で盗まれた携帯、財布等の物品を取り戻すのは難しいとほぼ諦めていた。

私たち4人は話し合い、
「現在地の写真をとり、Googleマップで記録すること」
「現在運転免許なしで運転しているので、まずレンタカーを返す事」
「警察に行く事」
「すぐにクレジットカードをとめること」
を決めた。

私たちはレンタカー屋に走行を始め、
クレジットカードが盗まれた私ともう1人の女性はクレジットカード会社への連絡等を始めた。

1人の女性のスペイン人の現地の友達と連絡がつき、彼が運転してレンタカー屋に来てくれることが決まった。
私達は約30分かけてレンタカー屋に向かった。
レンタカー屋でも事情を話し車を返却し、スペイン人の友人が来るのを待っていた。

その際に、私がもう一度「iphone を探す」機能を使うと、
位置情報が昨夜の時刻ではなく、「2分前」と表示され、ある場所で止まっていることに気づいた。
そこはレンタカー屋から25分離れた、警察署だった。

後から確認すると、被害にあった場所とそう離れていない場所だ。
「犯人が追跡機能を恐れて、携帯を捨てたのを誰かが見つけて警察に届けた可能性」を考えて、
迎えにきてくれたスペイン人の車で警察署に25分かけて向かった。

警察署に到着し、
「高速道路走行中に盗難の被害があったこと」 「iphone の位置情報がここを示していること」を 説明した。
そうすると警官は、「これですね」とバック2つを出した
そのバックの中には、ジャケットも含めた荷物が入っていた。
財布の中身を確認すると、現金は盗まれていたがクレジットカードは無事だった。

全ての荷物を確認すると、被害は以下のものであることが分かった
・紙幣・小銭含む現金全て (総額約100ユーロ程)
・レンフェ鉄道乗り放題カード
・水筒
・小さいバッグ

警察は、身分証明書読み上げ、私達の名前と住所が正しいかを確認した。
そして1つの書類に代表者1名がサインをした。

警察に状況を確認すると、
「被害があったそう遠くない高速道路の道脇に、バッグ2つが捨てられていたこと」
「窓口にいる人とは別の警官がバッグを拾い、警察署に届けた」とのことであった。

現金は盗られたものの、携帯、クレジットカード、パスポートといった現金の何倍も重要なものを取り戻し、本当に良かった。

学び&対策

今回の事から私達は以下の事を学んだ

・話しかけてくる人をいかなる状況でも信用しない
・車に異常がある事を指摘された緊急事態でも相手の元で停車しない。
高速道路を降りて、ガソリンスタンド等周りに人がいる安全な場所で車の状況を確認する
・常に携帯、財布、パスポートは肌身離さず持つ
・トラブルが起きた時こそ冷静に
・「iphoneを探す」機能を使う為にicloudにログインするID、パスワードを覚えておく
・全てのカードを財布に入れない、必ず自宅に予備を置いておく

事実は小説よりも奇なり

盗まれたと分かった時、
そして「iphoneを探す」の位置情報が機内モードで表示されない時、
私は「携帯と財布が戻ってくることはないだろう」とその時点で諦めていた。

悲しさや焦りよりも、こんな巧妙な手口があるのかと、一周回って感心していた。
ドアをあける音もたてずに、一瞬のうちに荷物全部をかっさらっていったから。
彼らは、盗みのプロだ。

「取り戻せない可能性が高い」と思いながらも、冷静に出来ることをトライして、

警察署でクレジットカードも携帯も無事だったのを確認した時は本当に嬉しかった。

ハッタリのメッセージでも、犯人は警察が追ってくるのを恐れて、慌てて現金だけ抜き出し、バッグを窓から道端に捨てたのだとしたら、ダメ元でもあのメッセージを送ってよかった。

全てが戻ってきた後、急激にホッとしてお腹がすいた私たちは近くのレストランに入った。
ビールを注文すると出てきたのは、まさかの「La caza de papel 」のベルリンが印刷された瓶。

La casa de papel は泥棒がテーマのスペインの有名なドラマだ。


このタイミングで泥棒がテーマのドラマの期間限定ボトル?!

しかも盗みのプロのベルリン?!


こんな偶然あるのだろうかとみんなで笑った。
大事な荷物を取り返して飲んだそのビールは最高に美味しかった。

今日は本当にドラマな一日で、

現金は失ったけど、
それよりも得るもの、学びが大きかった。

これはスペインだから起こったのか?
確かに日本より海外の犯罪率は高い。しかし日本だって同じ事が起こらないとは限らない。

私達は日本に住んでいて、 「人は親切だ」ということに慣れきっている。
財布や携帯を落としても、交番に届いている国に長年住んできた。
「日本人は親切だ」 その通りだと思うが、でもそれに慣れきっているのは危ない。
誘拐や詐欺。海外でも、日本でも 「親切を装って近づき、騙す人がいる」
これは忘れちゃいけない。

世の中には悪い人がいる。
でもいい人だって沢山いる。
今日の警察官や、迎えにきて運転してくれたスペイン人の友達。
家に返って状況を話したら、心配してくれて、ぎゅっとハグをしてくれたルームメイト。
その人たちの優しさが本当にありがたかった。

1番の奇跡


絶対返ってこないと諦めた、盗まれた携帯と財布が返ってきた。

これは「カラコルの奇跡だね」と一人の女性が言った。
Caracol カラコルは、スペイン語で「カタツムリ」の意味。

朝にカタツムリを草にかえしてあげた、あの子の恩返し。
Milagro del caracol=カタツムリの奇跡

「徳を積む」「お天道様が見ている」「情けは人の為ならず」
という日本の考えを思い出し、誠実に行動する事の大切さを改めて教えてくれた。

こんなドラマみたいな1日は、一生忘れないだろう。

事実は小説よりも奇なり。

―カタツムリの奇跡―

本日も最後まで読んで頂きありがとうございました。
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